※本記事の作成にあたり、文章の構成・推敲等に生成AIの支援を受けています。記載されている法令や制度等の内容については、執筆時点の情報を基に筆者自身が責任を持って確認・監修を行っております。
障害のあるお子さまをお持ちの親御さんとお話ししていると、ほぼ必ずといってよいほど話題に上るテーマがあります。それは「親亡き後問題」です。
「自分たちが元気なうちは何とかなる。でも、自分たちがいなくなった後、この子はどうなるのだろうか」――この不安は、多くの親御さんが抱えていらっしゃるものです。
なお本記事では、「親亡き後」を文字通り親御さんが亡くなった後だけでなく、親御さんが高齢や病気で十分にお子さまを支えられなくなった状況も含めて考えます。実際の相談現場でも、親御さんがご健在のうちに支援が必要になるケースは決して珍しくないからです。
相談現場でお話を伺っていると、親御さんの不安は大きく三つの方向に整理できることが分かります。
一つ目は、経済面の不安。自分たちが亡くなった後、お子さまの生活費はどうやって確保するのか。
二つ目は、生活面の不安。判断能力の面で支援が必要な場合、誰がお子さまの財産管理や日々の手続きを担うのか。
三つ目は、財産面の不安。残してあげたい財産を、どのような形で受け継いでもらえばよいのか。
実は、それぞれの不安に対応する制度がきちんと用意されています。具体的には、障害年金・成年後見・遺言相続の三つです。本記事ではこの三本柱の全体像をお話しします。各制度の詳細については、今後個別の記事で順に深掘りしていく予定です。今回はまず、全体を見渡していただくことを目指します。
1.第一の柱:障害年金 ― 生涯の経済的基盤
経済面の不安に応えるのが、障害年金です。
お子さまが20歳前に発症した障害については、保険料納付要件を問わない「20歳前傷病による障害基礎年金」という仕組みが用意されています。要件を満たせば、生涯にわたる経済的な基盤の柱となりうる制度です。
障害年金制度の全体像については別記事「障害年金の請求 ― まずは全体の流れを押さえましょう」で、20歳前傷病の制度の詳細については別記事「20歳前傷病の障害年金 ― 対象になる方と手続きの流れ、そして将来への備え」で、それぞれ詳しく解説しています。本記事では、三本柱の一つとしての位置づけに絞ってお話しします。
押さえておきたいポイントは、次の二点です。
一つは、一度認定されれば終わりではなく、定期的な更新が必要であること。永久認定となるケースは限られており、多くの場合は数年ごとに障害状態確認届(更新の診断書)の提出が求められます。
もう一つは、この受給額がそのままお子さまの生活原資になるということ。だからこそ、後で触れる「お金を管理する仕組み」と密接につながってきます。
実務の現場でも、20歳になる手前で慌てて準備を始めるご家族が少なくありません。早めに年金事務所や専門家に相談しておくことで、手続きの負担はかなり軽減されます。
2.第二の柱:成年後見 ― 日常を支える仕組み
生活面の不安に応えるのが、成年後見制度です。
親御さんがお元気なうちは、お子さまの預貯金の管理も、福祉サービスの契約も、医療機関でのやりとりも、事実上すべて親御さんが担っているのが実情です。多くのご家庭では、わざわざ後見の申立てをしなくても日々の生活が回っています。
問題が顕在化するのは、親御さんが亡くなったとき、あるいは高齢や病気でお子さまを支えられなくなったときです。これまで親御さんが担ってきた役割を、誰かが引き継がなければなりません。そこで必要になるのが成年後見制度です。
成年後見制度には、大きく分けて二つの種類があります。
一つは法定後見です。判断能力が不十分になった後、家庭裁判所に申し立てて後見人を選任してもらう制度です。お子さまの日常を支える仕組みとして、実務では中心的に使われています。
もう一つ、参考までに任意後見という制度もあります。判断能力があるうちに、将来支援してもらいたい人とあらかじめ契約を結んでおく仕組みです。
ただし、契約の締結には本人に一定の判断能力が必要なため、お子さまの状態によっては利用が難しい場合があります。加えて、契約は公正証書で作成する必要があり、判断能力が低下した際には家庭裁判所への任意後見監督人の選任申立ても必要となるなど、手続き面でのハードルが高い制度でもあります。
こうした事情もあり、障害のあるお子さま向けに任意後見が活用されているケースは、全国的に見ても多くはないのが実情です。多くのご家庭では、親御さんが亡くなられた後、あるいは高齢や病気でサポートが難しくなった段階で、法定後見を申し立てる流れになります。
そして、後見人を誰が担うのかという問題もあります。ご親族が引き継ぐのか、専門職後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士・社会保険労務士など)にお願いするのか、生前から考えておくことをおすすめします。
ここで一つ、重要な点をお伝えしておきます。法定後見の場合、申立てのときに「この方を後見人にしてほしい」と候補者を挙げることはできますが、最終的に誰を後見人に選任するかを決めるのは家庭裁判所です。ご親族を候補者として挙げたのに、家庭裁判所の判断で面識のない専門職が選任された、というケースも珍しくありません。「希望すれば必ずその通りになる」というわけではない点は、頭に入れておいてください。
親御さんの判断能力や体力があるうちに、将来の引き継ぎ先について情報収集しておくことで、いざというときの選択肢が広がります。
3.第三の柱:遺言・相続 ― 財産の残し方を設計する
財産面の不安に応えるのが、遺言・相続の備えです。
何も手を打たずに親御さんが亡くなった場合、財産は法定相続のルールに従って分割されることになります。お子さまにきょうだいがいれば、原則として法定相続分どおりに分けることになります。
ただし、ここに大きな落とし穴があります。遺言書がない場合、相続人全員で「遺産分割協議」を行わなければなりません。預貯金を引き出すにも、不動産の名義を変えるにも、原則としてこの協議が成立していることが前提となります。
ところが、お子さまの判断能力に支援が必要な場合、お子さまご自身では遺産分割協議に参加することができません。そのままでは、預金の払い戻しすら止まってしまうことになります。
この状態を解消するには、結局、お子さまのために成年後見人を選任してもらい、後見人が協議に参加する形を取らざるを得ません。つまり、遺言書がないために、慌てて成年後見の申立てをすることになるわけです。
これに対して、遺言書で「誰に何を渡すか」をあらかじめ決めておけば、遺産分割協議そのものを行う必要がありません。これは、遺言書の最も大きな効果の一つです。
加えて考えていただきたいのは、「相続させること」と「お子さまがその財産を管理できること」は別の話だという点です。仮にお子さまに財産を多く遺したとしても、判断能力に支援が必要な状態であれば、ご自身では預貯金の引き出しも不動産の処分もできません。受け取った後の管理者として、やはり後見人が必要になります。
そこで、遺言書の出番になります。お子さまの状況とご家族全体のバランスを踏まえて、誰にどの財産をどう残すのか、生前にしっかり設計しておくのです。たとえば、お子さまには現金中心で残し、不動産は他のきょうだいに、といった配分の工夫も考えられます。
そしてもう一つ、見落とされがちですが重要なのが、遺言執行者の指定です。遺言書に書いただけでは、実際の名義変更や預金解約などの手続きは自動的には進みません。遺言執行者を指定しておくことで、その人が中心となってスムーズに手続きを進められるようになります。
遺留分への配慮も忘れずに。きょうだい間の関係を悪化させないためにも、専門家を交えて設計するのが安心です。
4.三本柱は「セット」で考える
ここまで三つの柱をご紹介しましたが、最も大切なポイントをお伝えします。それは、三本柱はそれぞれ独立した別物ではなく、相互に補い合う関係にあるということです。
たとえば、こんな具合です。
障害年金で得た収入も、お子さまの判断能力次第では後見人による管理が必要になります。受給額が口座に振り込まれても、ご自身でそれを使えなければ意味がありません。
遺言で財産を残しても、受け取った後の管理者がいなければ、財産はうまく活用できません。やはり後見の仕組みが必要になります。
逆に、後見の体制だけ整えても、肝心の経済的基盤(年金)と、引き継ぐべき財産(相続)の備えがなければ、後見人は何を管理すればよいのでしょうか。
さらに、三本柱の関係でもう一つ意識しておきたい点があります。20歳前傷病の障害基礎年金には所得制限が設けられているため、相続によって受け取った財産の運用次第(賃貸収入・配当など)では、お子さまの所得が増え、年金が支給停止になる可能性があります。「相続させたら年金が止まった」という事態を避けるためにも、相続のあり方と年金の関係をセットで考えておくことが大切です。
このように、三本柱はつなげて初めて機能する仕組みなのです。どれか一つだけを完璧に整えるのではなく、全体をバランスよく設計していくという視点が欠かせません。
そして冒頭でも触れたとおり、これらは親御さんが亡くなった後だけでなく、ご健在でも判断能力や体力が衰えたときにも必要になります。だからこそ、親御さんがお元気なうちに準備を始めることに価値があるのです。
5.まずは一歩から ― 元気なうちに動くことの価値
ここまで読まれて、「やることが多すぎる」と感じられたかもしれません。確かに、三本柱をすべて整えるには時間も労力もかかります。
ただ、いきなり全部を完璧にする必要はありません。まずは年金事務所に相談に行ってみる、専門家に話を聞いてみる、そういった最初の一歩から始めていただければと思います。
大切なのは、親御さんがお元気なうちに動き始めるということ。ご自身の判断能力や体力が十分にあるうちでなければ、できないことがたくさんあります。遺言書の作成も、年金請求の準備も、すべて「今のうち」だからこそできることです。
6.(補足)信託という選択肢もある
最後に、もう一つだけ触れておきます。
財産管理の方法としては、家族信託や福祉型信託といった選択肢も存在します。お子さまのために財産を信託し、長期にわたって管理・給付してもらう仕組みです。
ただし、正直に申し上げると、信託は設計が複雑で、私自身もまだ十分に勉強できていない分野です。本記事では「こういう選択肢もある」という紹介にとどめ、詳しい解説は専門にされている方の情報をご参照いただければと思います。私自身も学びを深めて、いずれ別の機会にお話しできればと考えています。
まとめ
「親亡き後問題」は、決して特別な家庭だけの問題ではありません。障害のあるお子さまをお持ちの親御さんなら、誰もが向き合うことになる共通のテーマです。
そして、この問題に向き合うことは、親御さんご自身の安心にもつながります。「自分たちがいなくなっても、この子は大丈夫だ」と思える状態を作ること。それは、お子さまへの愛情の形であると同時に、親御さん自身の人生の質を高めることでもあります。
障害年金・成年後見・遺言相続――。三本柱を一つずつ整えていけば、必ずその安心にたどり着けます。一人で抱え込まず、専門家の力も借りながら、一歩ずつ進めていきましょう。
今回はここまでとなります。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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