※本記事の作成にあたり、文章の構成・推敲等に生成AIの支援を受けています。記載されている法令や制度等の内容については、執筆時点の情報を基に筆者自身が責任を持って確認・監修を行っております。
「遺言書に『財産はすべて配偶者に』と書けば、子どもには一切渡らないのでしょうか」――。ご相談の現場で、しばしばいただくご質問です。
結論から申し上げると、遺言で配分を指定すること自体は可能です。ただし、相続人には法律上保障された「最低限の取り分」があり、遺言をもってしてもこれを完全に奪うことはできません。これが「遺留分」と呼ばれるものです。
この記事では、まず相続の基本となる「法定相続分」を整理し、次に「遺留分」の仕組みと、その権利の行使方法について解説します。具体例には、配偶者と子2人からなる一般的なご家庭をモデルとして使います。
1.まずは相続人の範囲と順位
法定相続分の話に入る前に、「誰が相続人になるのか」を押さえておく必要があります。
配偶者は、常に相続人になります。そのうえで、配偶者以外の相続人には、次の順位が定められています。
- 第1順位:子(およびその代襲相続人である孫など)
- 第2順位:直系尊属(父母・祖父母など)
- 第3順位:兄弟姉妹
ポイントは、上の順位の方が一人でもいれば、下の順位の方は相続人にならないという点です。たとえばお子さまがいらっしゃれば、ご両親やご兄弟は相続人になりません。
2.法定相続分 ― 民法が定める「分け方の目安」
法定相続分とは、遺言や遺産分割協議で特段の定めがない場合に、民法が定めている相続財産の分け方のことです(民法第900条)。
組み合わせごとに、次のように決められています。
- 配偶者と子が相続人 … 配偶者2分の1/子2分の1
- 配偶者と直系尊属が相続人 … 配偶者3分の2/直系尊属3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人 … 配偶者4分の3/兄弟姉妹4分の1
子・直系尊属・兄弟姉妹がそれぞれ複数いる場合は、その順位の取り分を人数で均等に分けます。
具体例で見てみましょう。相続人が配偶者と子2人、相続財産が4,000万円のケースです。遺言がなく、法定相続分どおりに分けるとすると、次のようになります。
- 配偶者 2分の1 = 2,000万円
- 子A 子の取り分2分の1を2人で分けて = 1,000万円
- 子B 同じく = 1,000万円
なお、もしお子さまがおらず、相続人が配偶者と被相続人の父母であれば、配偶者が3分の2(約2,667万円)、父母が3分の1を分け合うことになります。さらに父母も先に亡くなっていて、相続人が配偶者と被相続人の兄弟姉妹であれば、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1という配分です。
ここで強調しておきたいのは、法定相続分はあくまで「目安」であって、これに必ず従わなければならないわけではない、という点です。相続人全員が合意すれば、遺産分割協議によって自由な割合で分けることができます。法定相続分は、話し合いがまとまらないときや、各人の権利の大きさを測るときの基準になるものとお考えください。
3.遺留分 ― 遺言でも奪えない最低限の取り分
それでは、冒頭のご質問に戻ります。被相続人が遺言で「全財産を配偶者に相続させる」と定めた場合、お子さまの取り分はどうなるのでしょうか。
ここで登場するのが遺留分です。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された、相続財産の最低限の取り分のことをいいます。
遺留分の全体の割合(総体的遺留分)は、相続人の組み合わせによって次のように決まります(民法第1042条第1項)。
- 直系尊属のみが相続人である場合 … 相続財産の3分の1
- それ以外の場合(配偶者や子がいる場合) … 相続財産の2分の1
そして、相続人が複数いる場合は、この全体の割合に各自の法定相続分を掛けて、一人ひとりの遺留分(個別的遺留分)を算出します(同条第2項)。
ここで一点、注意していただきたいことがあります。兄弟姉妹には遺留分がありません(民法第1042条は「兄弟姉妹以外の相続人」と定めています)。したがって、相続人が配偶者と兄弟姉妹のケースで「全財産を配偶者に」と遺言しておけば、兄弟姉妹は遺留分を主張できず、配偶者がすべてを相続できることになります。
先ほどの「配偶者と子2人・財産4,000万円」のモデルで、個別的遺留分を計算してみます。全体の遺留分は2分の1ですから、
- 配偶者 2分の1(全体)× 2分の1(法定相続分)= 4分の1 = 1,000万円
- 子A 2分の1(全体)× 4分の1(法定相続分)= 8分の1 = 500万円
- 子B 同じく = 500万円
となります。つまり、たとえ遺言で全財産が配偶者に渡されたとしても、子A・子Bにはそれぞれ500万円ずつの遺留分が保障されている、ということです。
4.遺留分は「侵害額請求」で行使する ― 法改正に注意
遺留分について、近年の法改正で重要な変更がありましたので、ぜひ押さえておいてください。
かつては「遺留分減殺請求」という制度で、遺留分を侵害された相続人は、原則として財産そのもの(不動産の持分など)を取り戻す形になっていました。しかし、平成30年改正(令和元年7月1日施行)により、現在は遺留分侵害額請求という制度に変わっています(民法第1046条)。
これは、遺留分を侵害された方が、侵害している相手(多くを受け取った相続人や受遺者)に対して、侵害された分を「金銭」で支払うよう請求できる、という仕組みです。先ほどの例でいえば、子A・子Bは、全財産を相続した配偶者に対して「遺留分にあたる500万円を支払ってほしい」と金銭で請求することになります。
この改正により、不動産が共有状態になって権利関係が複雑になる、といった事態を避けやすくなりました。インターネット上には改正前の「遺留分減殺請求」を前提とした古い解説も残っていますので、情報を調べる際はご注意ください。
なお、遺留分侵害額請求には期間制限があります。遺留分権利者が「相続の開始」と「遺留分を侵害する贈与・遺贈があったこと」の両方を知った時から1年、または相続開始の時から10年を経過すると、請求できなくなります(民法第1048条)。権利があっても、放っておけば消えてしまうという点には注意が必要です。
請求の意思表示は口頭でも可能ですが、後日「いつ請求したか」を証拠として残すために、内容証明郵便を用いるのが一般的です。相手方と折り合いがつかず、交渉や家庭裁判所での手続きに発展する場合は、弁護士にご相談ください。
5.実務の現場から ― 「権利がある」ことと「請求する」ことは別
ここまで制度を整理してきましたが、実務の感覚として、いくつか補足しておきたいことがあります。
まず、遺留分は「侵害されたら自動的に取り戻される」ものではなく、権利者が自ら請求して初めて効力を持つものです。遺留分を侵害する遺言があったとしても、相続人がそれに納得していて誰も請求しなければ、遺言のとおりに相続が実現します。「権利がある」ことと「実際に請求する」ことは、別の話なのです。
たとえば、お子さまが「遺された配偶者(母)の生活を考えれば、自分は請求しなくてよい」と考えるご家庭は、実際少なくありません。逆に、関係がこじれているご家庭では、遺留分をめぐって争いになることもあります。
だからこそ、遺言書を作成する側としては、遺留分にあらかじめ配慮しておくことが、争いを防ぐ大きなポイントになります。「特定の一人にすべてを」という遺言は、法的には作成できても、他の相続人の遺留分を侵害していれば、後々の請求の火種を残すことになりかねません。誰にどの財産を、どの程度残すのか――遺留分の存在を踏まえて設計しておくことで、ご家族の関係を守ることにつながります。
また、相続人の中に判断能力の面で支援が必要な方がいらっしゃる場合は、その方が遺留分侵害額請求をするかどうかの判断も、ご本人だけでは難しくなります。私自身、専門職後見人として被後見人の方の相続に関わることがありますが、後見人が本人の利益を踏まえて権利行使を検討する必要が出てきます。ご家庭の事情によっては、こうした点まで見据えた備えが大切になります。
遺言書の作成や、遺産分割協議書の整え方については、別記事「遺産分割協議書の作成 ― 実務で押さえておきたいポイントと作成例」でも触れていますので、あわせてご覧いただければと思います。
まとめ
法定相続分と遺留分について、要点を整理します。
- (1) 法定相続分は、民法が定める分け方の「目安」であり(民法第900条)、相続人全員の合意があれば、これに縛られず自由に分けることができる。
- (2) 遺留分は、一定の相続人に保障された最低限の取り分であり(民法第1042条)、遺言をもってしても完全には奪えない。ただし兄弟姉妹に遺留分はない。
- (3) 遺留分は、現在は「遺留分侵害額請求」として、金銭で請求する仕組みになっている(民法第1046条)。期間制限(1年・10年)にも注意が必要(民法第1048条)。
- (4) 遺留分は権利者が自ら請求して初めて効力を持つ。遺言を作成する際は、遺留分に配慮しておくことが、ご家族の争いを防ぐことにつながる。
「遺言さえ書けば思いどおりになる」とは限りません。法定相続分と遺留分という二つのものさしを知っておくことが、ご自身の意思を確実に残し、かつご家族の関係を守る第一歩になります。気になることがあれば、早めに専門家にご相談ください。
今回はここまでとなります。最後まで読んでいただきありがとうございました。
当事務所では、障害年金のご請求や成年後見、遺言・相続といった「人生の転機」に関わる手続きをサポートしています。ブログを読んで少しでも気になることやご不安なことがありましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。
それでは失礼いたします。
