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社会保険労務士・行政書士の宮腰です。ものを書くのが好きで始めました。マイペースで投稿していきますので、よろしくお願いいたします。

2026年5月26日火曜日

相続放棄をして終わりではない ― 「保存義務」と財産の引継ぎ

※本記事の作成にあたり、文章の構成・推敲等に生成AIの支援を受けています。記載されている法令や制度等の内容については、執筆時点の情報を基に筆者自身が責任を持って確認・監修を行っております。

相続放棄をすれば、その相続とはきれいに縁が切れる――。多くの方がそうお考えになりますし、相続放棄のご相談でも、まずこのイメージから入る方がほとんどです。

相続放棄は、決して縁遠い話ではありません。ご相談の現場はもちろん、私が関わる成年後見・保佐の活動の中でも、ご本人を守るために放棄を検討する場面はしばしば訪れます。それだけ身近な制度だということです。

ただ、注意していただきたいことが一つあります。相続放棄をしたあとも、一定の場合には、果たすべき務めが残ることがあるのです。令和5年の民法改正で、このルールは大きく見直されました。本記事では、相続放棄をした「あと」に残る義務――保存義務と、引き継ぐ相手がいないときの相続財産清算人について解説します。

なお、相続放棄そのものの基本(受け取れる財産や税金、手続きの期限など)については、別記事「相続放棄と死亡保険金・年金 ― 受け取れる権利と税金面の注意点」で詳しく扱っていますので、あわせてご参照ください。

1.相続放棄をしたら「初めから相続人でなかった」 ― まず効力の確認

はじめに、相続放棄の効力を確認しておきます。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

相続放棄をすると、その人は「初めから相続人ではなかった」ものとして扱われます(民法第939条)。ごくざっくり言えば、「親の借金を子が背負うことはない」という制度です。手続きは、家庭裁判所への申述によって行います(民法第938条)。

期限にも注意が必要です。相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行わなければなりません(民法第915条第1項)。「亡くなった日から3か月」ではなく、「自分が相続人になったことを知った時から」が起算点である点は、実務でもよく問題になります。この点を含む期限の話は、別記事「相続発生後のスケジュール」で整理しています。

このように、放棄をすれば相続関係からは切り離されるのが原則です。それでも、「放棄したのだからもう何も関係ない」と考えるのは早計です。一つは、これから本記事で詳しく扱う保存義務。そしてもう一つ、見落とされやすいのが税金面です。

税金については本記事の主題から少し外れますので簡潔に触れるにとどめますが、相続放棄をしても、受取人に指定された死亡保険金は受け取れます。ただし、相続人だけに認められている死亡保険金の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)は、放棄をすると使えなくなります(相続税法第12条第1項第5号、民法第939条)。その結果、税金面で不利になることがあります。具体的な税額や申告の要否はケースによりますので、税理士にご相談いただくのが安心です。この点は別記事「相続放棄と死亡保険金・年金」で詳しく解説しています。

それでは、本記事の中心である保存義務から見ていきます。

2.令和5年の改正点 ― 「管理義務」から「保存義務」へ

相続放棄をした人の義務を定めているのが、民法第940条です。この条文は、令和3年の民法改正により、令和5年4月1日から内容が大きく変わりました。

まず、改正前はこう定められていました。

(旧)相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

これが、現在は次のようになっています。

(現)相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

変わった点は、大きく三つです。

一つ目は、義務の中身です。「管理」から「保存」へと言葉が変わりました。保存とは、財産を滅失させたり傷めたりしないという、いわば必要最小限の務めです。積極的に活用したり手を加えたりすることまでは求められません。

二つ目は、義務を負う人の範囲です。改正前は、遠方に住むなど実際には財産に関わっていない人にまで管理義務が及ぶおそれがありました。改正後は、放棄の時にその財産を「現に占有しているとき」に限って、保存義務を負うことになりました。これが今回の改正で最も重要な変更点です。

三つ目は、引き渡す相手です。保存した財産は、次の相続人、または相続財産清算人(後述します)に引き渡すまで保存すればよい、と明確になりました。

なお、この改正には経過措置がありません。施行日より前に発生した相続や、施行日前に行った相続放棄にも、現在の第940条が適用されます。

3.「現に占有している」とはどういう状態か ― 家族の例で

改正の鍵となる「現に占有している」とは、その財産を事実上、支配・管理している状態を指します。少し抽象的ですので、匿名の家族モデルで考えてみます。

ある方が多額の借金を残して亡くなり、相続人はお子さま2人(長男・次男)だったとします。2人とも相続放棄をすることにしました。

長男は、亡くなった親と同居しており、相続放棄をしたあとも、その実家に住み続けています。この場合、長男は実家(不動産)を「現に占有している」といえますので、次の相続人や清算人に引き渡すまで、その家を保存する義務を負います。

一方、次男は遠方で独立して暮らしており、実家の鍵も持たず、管理にも一切関わっていません。この場合、次男は実家を「現に占有している」とはいえませんので、保存義務は生じません。改正前であれば、遠方の次男にも管理義務が及ぶおそれがありましたが、現在はそうではない、ということです。

不動産だけでなく、預貯金の通帳やキャッシュカードを手元に持っている場合も同じです。「自分は相続しないのだから」と、それらを不用心に放置してよいわけではありません。条文にあるとおり、「自己の財産におけるのと同一の注意」――つまり、自分の通帳やカードと同じように、なくさないよう丁寧に保管しておく必要があります。

ここで一点、気をつけたいことがあります。「自分の財産と同じように」とはいっても、それは「自分のものとして使ってよい」という意味ではありません。あくまで、次に引き継ぐべき方のために預かっている財産です。手元にある預貯金を引き出して使ったり、遺品を勝手に処分したりすると、「相続を承認した」とみなされ(民法第921条第3号)、せっかくの相続放棄が認められなくなることがあります。「次の方に渡すために預かっている」という意識を忘れないでください。

4.その義務は「誰に対する」ものか ― 第三者への賠償と混同しない

ここで、誤解されやすい点を一つ補足します。

保存義務は、あくまで「次の相続人」や「相続財産清算人」に対して負う義務であると考えられています。つまり、財産をきちんと保存して、次に引き継ぐべき人に渡すための義務です。近隣にお住まいの方など、第三者に対して直接負う義務ではない、という整理が有力です。

「相続放棄をしても管理義務があるのだから、もし空き家が傷んで他人に損害を与えたら、放棄した自分が賠償責任を負うのでは」と心配される方がいらっしゃいます。確かに、放置によって生じる損害の問題はまったく無関係ではありません。ただし、それは保存義務そのものというより、その建物などを現に占有・所有する人が負う「土地工作物責任」(民法第717条)といった、別の枠組みで検討される問題です。

このあたりは、「現に占有しているといえるか」「誰がどのような責任を負うか」といった法的な評価が絡み、紛争に発展する可能性もある領域です。ご自身のケースで責任の有無が気になる場合は、弁護士や司法書士といった専門家にご相談ください。

5.引き継ぐ相手がいないとき ― 相続財産清算人

ここまでは、保存した財産を「次の相続人」に引き継ぐことを前提にしてきました。では、引き継ぐ相手がいない場合――相続人が自分しかいなかった、あるいは相続人全員が放棄してしまった場合は、どうなるのでしょうか。

このような、相続人のあることが明らかでない場合には、相続財産は「法人」として扱われます(民法第951条)。そして、利害関係人や検察官の請求によって、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任します(民法第952条)。選任された清算人が、亡くなった方の債務を清算するなどし、最終的に残った財産は国のもの(国庫)になります(民法第959条)。

この「相続財産清算人」という名称も、令和5年4月の改正で変わったものです。改正前は「相続財産管理人」と呼ばれていました。あわせて、財産の保存だけを目的とする新しい「相続財産管理人」の制度も別に設けられました(民法第897条の2)。同じ「管理人」という言葉が別の制度を指すことになったため、現在では清算を担う人を「清算人」と呼んで区別しています。

手続きの面でも改善がありました。改正前は、複数の公告を順番に行う必要があり、権利関係の確定までに最低でも10か月ほどかかっていました。改正後は、これらの公告をまとめて行えるようになり、最短で6か月程度に短縮されています(民法第952条第2項・第957条第1項)。

ただし、清算人選任の申立てには費用がかかります。清算人の報酬などにあてるため、申立人がまとまった金額を裁判所に納める(予納する)よう求められるのが通常です。

そして大切な点として、相続放棄の申述も、相続財産清算人の選任申立ても、いずれも家庭裁判所への手続きです。これらは行政書士や社会保険労務士の業務範囲ではなく、弁護士や司法書士の領域になります。

私自身、保佐人として関わった案件で、ご本人(被保佐人)が相続人になった際に、弁護士と相談のうえ相続放棄が適切と判断し、その手続きを弁護士に依頼したことがあります。専門職として後見・保佐に携わる立場であっても、家庭裁判所への手続きは弁護士の力を借りて進めました。それだけ、慎重な判断と専門的な対応を要する場面だということです。もし清算人の選任まで必要なケースに直面されたら、迷わず弁護士や司法書士にご相談ください。各自治体が行っている無料法律相談を活用するのも一つの方法です。

6.「引継ぎ」が大事 ― 放置せず、早めに次へ

最後に、相続放棄をしたあとの心構えについて触れておきます。

現在の法律では、保存義務を負うのは「現に占有している」場合に限られるようになりました。実際には関わっていない財産にまで責任が及ばないよう、放棄する側の負担を軽くする方向で見直された点です。ただし、現に占有している財産がある場合には、放棄したあとも保存の責任が残ります。その財産は、次の相続人へ引き渡すまで保存することになります。引き継ぐ相手がいないのであれば、前節のとおり清算人の選任を検討することになります。

では、その次の相続人は誰になるのでしょうか。「親なのか、兄弟姉妹なのか」は、戸籍をたどって確認する必要があります。誰が次順位の相続人になるのかについては、別記事「法定相続分と遺留分 ― 遺言でも奪えない「最低限の取り分」」でも触れていますので、参考にしていただければと思います。

放棄したことを次の相続人にわざわざ知らせる法律上の義務まではありません。とはいえ、相続放棄は、多くの場合、亡くなった方に借金があるからこそ選ぶものです。借金があれば、貸していた方(債権者)がいます。その債権者から次の相続人へ連絡が入り、思いがけず相続を知る、ということもあります。後の行き違いを避けるうえでは、可能であれば「こういう事情で放棄した」と一言伝えておくと、その後がスムーズです。関係が遠く、直接連絡しづらい場合は、無理に動かず、専門家に相談して進め方を整理するという方法もあります。

放置がよくないのは、社会全体から見ても同じです。誰も管理せず引き継ぎもされないまま放置された不動産は、いわゆる「空き家問題」の一因にもなります。お金も手間もかかることは、誰しも気が進まないものですが、各相続人がきちんと向き合って引き継いでいくことが、結局は遠回りのようでいて確実な道だと感じています。

相続放棄をして、相続関係から切り離されること。それでも、現に手元にある財産はきちんと保存し、次へ引き継ぐこと。「放棄して終わり」ではなく、最後の引継ぎまでが一区切りなのだと考えていただければと思います。


今回はここまでとなります。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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